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タバコワカサギ

ショートショート。

※写真はイメージです。


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2010年3月14日、日曜日。

佐々木雄一郎は妻の洋子、息子の雄太連れて朱鞠内湖に来た。

テレビのニュースでワカサギ釣りの様子を見た雄太が、

「とーさん!ワカサギ釣りたい!!」としきりにせがむので、

仕事で疲れていたが、重い腰をようやく上げたのだった。

札幌からのロングドライブで少々疲れていたが、漁協の事務所で入漁料と、

レンタルの竿とテントを借りて湖へ進んだ。



湖はいい天気。

日曜とあって、多くの釣り人で賑わっていた。

マニアックなおじさん軍団、家族連れ、学生のグループなどなど。

「さて、どこで釣ろうかな?」

辺りを見廻すと、ちょうど3つ穴が空いている。

ちょうど漁業のスタッフらしき人が、

「開けておきましたんでどーそ」

と声を掛けてくれた。

自分で開けても、漁協の人が空けた穴を使ってもいいようだ。



それを聞いた雄太が、

「やーだー!自分で開けるぅー!!」

と言い始めた。

父親としては、いいところを見せなければならない。

「そうだ、穴ぐらい自分で空けよう」



30メートルくらい離れたところに、穴あけ用のドリルが置いてあった。

「雄太、あのドリル持っておいで」

「わかったよ、父ちゃん!!」



ハアハアと息を切らしながら、重そうに、

でも嬉しそうに雄太はドリルを引きずってきた。

もう雄太も来月には小学生だ。



「あら、ずいぶん力持ちになったのね、偉いわね」

洋子も嬉しそうだった。




雄太が持ってきたドリルは見た目よりずっしりと重かった。

手に取ると、雄一郎の足もとがふらついた。

「父ちゃん、大丈夫か?」

「なあに大丈夫さ、これくらい」




よさそげな場所にドリルを垂直に立て、ハンドルを回してみた。

中心がずれて、なかなかうまくいかない。

次第に慣れてきて、30センチくらいドリルが埋まっていった。

「すげー!空いてるよ!」

雄太が歓声をあげた。

60センチくらい入ったところでドリルが止まった。

というより、重くて回せなくなった。

抜いてみようと試みたが、抜けない。

やむなくドリルを反対方向に回しドリルは抜けた。



「ハアハアハアハア・・・・」

頭の血管が切れそうだ。

普段の運動不足と残業とストレスと不摂生のせいだと雄一郎は自分で解っていた。

「漁協の人たちはどうやって開けてるんだ?」

考えたが、意識が遠のきそうになった。





「やっぱさ、あの開いてる穴にテント張ろうよ、時間もったいないし、さ」

雄一郎はドリルを投げ出してそう言った。

早く釣りがしたい雄太もそれに従った。



テントはワンタッチ方式で、簡単にたてられた。

3つの穴に、すっぽり被せると、佐々木家ののテントが出来上がった。

「あら、中は暖かいのね」

寒がりの洋子は嬉しそうだった。



幼少のころ、釣りの心得が多少ある雄一郎は、

割りと手早く仕掛けをつくって、餌をつけた。

「いいか、こうやって釣るんだぞ」

穴にスルスルと仕掛けが吸い込まれていく。

「底に重りが着いたら少し上げて、こうやってチョンチョン、と誘ってやるんだ」

「・・・・・・」




「父さん、釣れないじゃん」

「うーん、場所が悪いのかな。どうせ漁業のバイトが適当に開けた穴だろうからな」

周りを見渡すと、

「わー、また釣れた」

「今度は3匹まとめてだよ!」

と楽しそうな歓声があがっていた。




すでに釣りはじめて10分は経っただろうか?

「そうだ、まだワカサギが集まってないんだよ、

お父さんは仕掛けをもう2つ作るから、雄太、釣ってなさい」



そうして竿を雄太に渡し、

士別のセイコーマートで買ってきたサントリー金麦を開けた。

続けてマルボロメンソールに100円ライターで火を着けた。




「あなた、テントの中だと煙いわ」

洋子が抗議する。

「うるせー、俺は運転で疲れてるんだ、

そこのチャック開ければメッシュになってるからよう」

運転もそうだが、年度末の決算期で残業が続き、雄一郎はかなり疲れていた。

おまけに数字が合わないと、経理部長から毎日事あるごとに詰められていた。

同僚と毎日のように、すすきののチェーン居酒屋で、

上司の愚痴を肴に安酒を飲む日々だった。





「釣れたよっ!」

雄太がワカサギを釣った。

「おおっ、やるじゃないか」

タバコを投げ捨て、自分の仕掛けを作りはじめた。

「チロリロリーン!」

洋子はケータイのカメラでワカサギを釣った雄太を撮っている。




こうしてはいられない、父親の面目を保たねば。

「あなた、あたしの仕掛けはまーだ?」

そうだ、洋子の仕掛けも作らねば。ああ、面倒くさい。



洋子の仕掛けを作り終わったころ、

雄太の足もとにはこんもりとワカサギが山になっていた。

30尾くらいだろうか?


「父ちゃん、こんがらがったあ」

見ると、雄太の仕掛けが暴れたワカサギでグシャグシャになっていた。

解こうと試みたが、無理だったので根元から切って、新しい仕掛けと交換した。

グシャグシャの仕掛けは、テントの隅に放り投げた。

DSC_0147.jpg





ようやく自分の仕掛けが作れる。

そう思った瞬間、

「あら、もうこんな時間だわ。あなた、お湯を沸かしてちょうだい」

お昼はカップラーメンにしようと言ったのは雄一郎だった。

そういえばお腹が鳴っている。

お湯を沸かし、カップラーメンを食べた。




「父さん、もう飽きた~、帰ろうよ」

「そうね、私も身体が冷えてきたわ」




雄太と洋子の足もとには、たくさんのワカサギの山だったが、

雄一郎の足もとには、マルボロの吸い殻と灰で真っ黒になっていた。

DSC_0136.jpg





「あなた、残ったスープはどうするの?」

「ああ、ここに捨てれば餌になるよ」

残ったスープを穴にドボドボと捨てた。

ラーメンの麺の破片が、糸ミミズのように落ちていった。

DSC_0183.jpg





「さあ、帰ろう。明日も早いんだ」

テントをたたみ、荷物をまとめた。

「あなた、ゴミはどうするの?」



見ると、絡んだ仕掛け、カセットコンロのガス缶、金麦の空き缶、

そしてタバコの吸い殻があった。

「いいさ、放っておけ。雄太、行くぞ」

DSC_0163.jpg










2033年3月13日、日曜日。

成人した雄太は家族を連れて朱鞠内湖を訪れた。

父親の雄一郎は、肺癌で入院中だ。




湖に行くと人影はなく、看板が立っていた。

看板にはこう書かれていた。




朱鞠内湖に生息するワカサギに高い発がん性があることが判明し、

厚生労働省の指導により、この湖でのワカサギ釣りを全面禁止とする。

朱鞠内湖淡水漁業協同組合

DSC_6759.jpg






















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そーすけ

Author:そーすけ
フライフィッシングと自然あそびが好きなあまり、東京ベースから北海道ベースに移行中。のんびりがいーねっ!

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